
名作昔話を掘り下げる、第4回目は、
よくできたお笑い小話
『エンマさんの医者探し』
をお送りします。
すごく短い話なんですけど、
そのぶん、骨組みの勉強にはもってこいです。
“モチーフ”(起点となっている発想)から、
どのようにして、物語が組み立てられているか?
これを丹念に見ていきましょう。
今回ご紹介する話は…
↑この中に収録されています。このストーリーのモチーフ(発想の原点)
生きている間に悪いことをした人間は、地獄に落ちる……。
とすると、地獄にいる医者は、ヤブ医者ばかりのはず。
だって患者をたくさん殺しているから。
でも、ちょっと待てよ…。
じゃあ、“人を殺してない医者”がいい医者かと言ったら、
そうでもないよな。
だって、新米医者はまだ誰も殺してないわけだし……。
ハイ、ちょっと、
今回のモチーフは、変則的に記してみました。
でも、モチーフってこんなものですよ。
まだストーリーになっていないんです。
フッと頭に浮かんだ発想、それが
「ん? これって、物語のネタになりそうだな…」
と感じたら、そこから物語創作が始まっていくんです。
(これは「昔話」ではあるんですが、
その勉強にもってこいです。)
では、ここを踏まえて、
その物語作成の手順を見ていきましょう。
天(世界観)・地(場所)・人(登場人物)
・「日本の昔」
・「地獄」
・「閻魔大王」
・「地獄」
・「閻魔大王」
モチーフを振り返って、「物語の設定」を作るとこうなります。
「地獄にいる医者はみんな、ヤブ医者である」
⬇︎
「それで困るのは誰?」
「地獄といえば、誰?」
⬇︎
「そうだ、閻魔大王が病気したってことにしよう!」
⬇︎
閻魔大王が主人公に決定
⬇︎
「それで困るのは誰?」
「地獄といえば、誰?」
⬇︎
「そうだ、閻魔大王が病気したってことにしよう!」
⬇︎
閻魔大王が主人公に決定
あらすじ(物語のおおまかな設計図)
では次に、2つのモチーフ、「地獄にいる医者はみんなヤブ医者である」
「新米医者はヤブ医者ではないけれど、まだ誰も殺していない」
を盛り込みながら、あらすじをまとめていきましょう。
あらすじ
地獄(あの世)の閻魔大王が風邪をひいた。
地獄にいる医者に診せても、いるのはみんなヤブ医者だから、
いっこうによくならない。
閻魔大王は、この世に使いを出す。
「亡霊のさまよっていない病院の医者を連れてこい。
それがいい医者だ」
と言って。
使いの鬼が、ようやくそのような病院を見つけ出したが、
入り口に「本日開業」と書いてあった……。
起承転結は?
起
風邪をひいた閻魔大王が、
地獄にいる医者に診てもらうも、ヤブ医者ばかり。
承
閻魔大王の命を受け、赤鬼が
この世に「いい医者」を探しに使いを出る。
転
赤鬼は、閻魔大王の注文通り、
「亡霊のさまよっていない病院」を探し出した。
結
そこには、「本日開業」と書いてあった……。
このストーリーのポイントは?
前述の通り、この物語は、2つのモチーフが鍵になっています。
❶「地獄にいる医者はみんなヤブ医者である」
❷「新米医者はヤブ医者ではないけれど、まだ誰も殺していない」
❶が頭に浮かんだら、こっちのものですね。
発想を広げていく一つのテクニックを紹介します。
それは、『と、いうことは理論』です。
これは私が編み出した(使っている)オリジナル理論なんですが、
一つの発想が思い浮かんだら、
『と、いうことは……』
を使って、発想の翼を広げていきます。
「地獄にいる医者はみんなヤブ医者である」
ということは…
⬇︎
「〜〜」
ということは…
⬇︎
「〜〜」
ということは……
ということは…
⬇︎
「〜〜」
ということは…
⬇︎
「〜〜」
ということは……
みたいに。
発想の起点は、
“トンデモ説”みたいなものでいいんです。
・ボーダーを好んで着る女性はモテない、とか
・よく寝癖のついている男性はやさしい、とか。
(↑あ、ここはツッコミ禁止です。単なる“トンデモ”説の例ですから。)
そこからもう一つの、面白い“説”が出てきたら、
それを物語のオチに使ってみようとすればいいわけです。
じゃあ今ここで、一個やってみましょう。
「ボーダーを好んで着る女性はモテない」
……ということは
⬇︎
「男性に追っかけられたくない女性はボーダーを着ればよい」
……ということは
⬇︎
「最近都会に増えてきたボーダー柄の生き物といえば、
スズメバチだ。
……ということは
⬇︎
「男性に追っかけられたくない女性はボーダーを着ればよい」
……ということは
⬇︎
「最近都会に増えてきたボーダー柄の生き物といえば、
スズメバチだ。
スズメバチは、男性に恨みを持っている女性の化身なのかもしれない」
……ということは
⬇︎
「スズメバチは、男性しか刺さない。
男性がスズメバチから身を護るには、女装すればいい」
……ということは
⬇︎
「スズメバチは、男性しか刺さない。
男性がスズメバチから身を護るには、女装すればいい」

トンデモ説のようなモチーフでもいいんですが、
あんまりトンデモ過ぎると、
物語に説得力がなくなるといいますか、
すごく“独り善がりのストーリー”になってしまう可能性があるので、
そこは注意が必要です。
(多分↑の例で実際に物語を作ると、そうなります……。)
このストーリーの伝えるメッセージは?
私の敬愛する童話作家、斎藤洋さんは、その著作の中で、
物語にテーマなんていらないんです。
書いている中で自然に出てきたものが、テーマになっていきます。
と語っています。
今回は、一編の昔話を紹介しながら、
「モチーフが思い浮かんだら、
そこから発想の翼を広げていくのが、創作のコツ」
と語ってきましたが、
発想を次々に広げていく中で、
その人自身の、思想・心情・人生観などが出てきます。
それらを材料に作った物語だから、
作者と読者の間で、
“心の奥底でのコミュニケーション”が取れるのですね。

最後に、
もう一度、この『閻魔さんの医者探し』に話を戻すと、
人が、普通は恐れるはずの、地獄、閻魔大王、鬼を、
これだけユニークに扱ったり、
あの世とこの世を軽快に行き来できるものと捉えたり、
人の世では「偉い」とされている医者をこのように皮肉ってみたり、
けっして裕福ではない民衆の間で
伝承されてきたお話なんでしょうが、
この物語に触れると、大笑いすると同時に、
「昔の日本人は皆、本当に明るく、洒脱に生きてきたんだなぁ」
と感じ、我々の祖先たちに、敬服せざるを得ません。
……昔話って、本当に面白いです。

……というわけで、
名作昔話を掘り下げる、第4回目『閻魔さんの医者探し』でした。
何らかのお役に立てば幸いです。

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