
名作昔話を掘り下げる、第7回目は、
インドの昔話『かしこすぎた大臣』
をお送りします。
こちらも前回と同じく、
昔話ですが、“再話者”の名前がハッキリとしている話です。
再話者がどのような趣意で、話を整えたのか、
そのへんにも思いを巡らしながら、深掘りしていきましょう。
今回ご紹介する話は…
↑この中に収録されています。このストーリーのモチーフ(発想の原点)
どんな時代にも、有力者にコバンザメのようにまとわりついて、
おいしい汁を吸い続ける人間っているよね。
おいしい汁を吸い続ける人間っているよね。
そんな人間は大抵、表面的には、
「あなたを尊敬しています」、「あなたについていきます」
とか言いながら、裏ではその人を馬鹿にしてたりするんだよ。
物語が生まれる一番最初の材料(モチーフ)って、
「世の中って、こうじゃない?」
という想いや、ひらめきのことです。
でも、そうしたひらめきは、
物語にしないと、人が見てくれません。感じ取ってくれません。
こういったもの(モチーフ)に、
少〜しずつ肉付けをしていくことで、
物語というものは作られていくんですね。
……そうすることによってモチーフは、
ありのままのメッセージを隠し、
“テーマ”として、物語の中で息づいてきます。
物語の『天・地・人』
では、基本設定を抑えていきましょう。天(時代・世界設定)
インドの昔
(あくまでも「昔話」なのでファンタジー要素は強い)
(あくまでも「昔話」なのでファンタジー要素は強い)
地(物語のスタート地点)
ある王様の城
人(主人公および登場人物)
王様と側近の大臣
あらすじ(物語のおおまかな設計図)
主人公の大臣は、いつも王様のそばで、
「自分がどれだけ頭がいいか」を、王様に対し印象付けていた。
王様はこれを真に受け、実際、
「こんな大臣が仕えてくれている自分は何て幸せなんだ」
と思っていた。
でもこの大臣は、王様に親切にするふりをして、実はやりたい放題だった。
嘘を教えて、自分の嫌いな人に罪を被せたり、
王様のお金をネコババしたり……。
ある時、自分が罪を被せた人から、命乞いをされた大臣は、こんな嘘をつく。
「王様、今日は特別な日です。今夜こやつを殺したら、こやつは天国に行ってしまいます。罪人を天国に行かせてどうするのです?」と。
王様は実は、かねてから天国に行きたいと思っていた。
「大臣、一緒に天国へ行くぞ。まずはお前から行け」
……大臣は、殺されてしまう。
起承転結は?
起
王様と大臣登場。
王様と大臣の関係性を説明。
王様は、大臣に絶大な信頼を置いている。
大臣はそれに対し、
「どこへでもあなたについて行きます」と忠誠を誓う。
でも、この大臣はしたたかなやつ。これらはぜんぶ彼の作戦(嘘)。
承❶
ある時、道でキツネが鳴く。
王様:「あれはなぜじゃ?」
大臣:「キツネは寒がっているのです。キツネの毛布を奪ったものがおります」
王様:「その者を殺せ。そしてこのお金でキツネに毛布を買ってやれ」
大臣、自分の嫌いな人物を葬り、お金も着服……。
承❷
キツネはまだ鳴いている。
大臣:「あれは王様に対して感謝しているのです」
そこへイノシシが現れる。
王様:「これは何じゃ?」
大臣:「これは痩せこけた“ゾウ”です。飼育係がさぼっているのです」
王様:「その者を殺せ。このお金で餌を与えよ」
大臣、またも、自分の嫌いな人物を葬り、お金も着服……。
承❸
道へまたイノシシが現れる。
大臣:「これは城の食料を食い荒らしたネズミです」
王様:「では料理番を殺せ」
料理番:「大臣、お金をやるから、何とか私を助けてくれ」
大臣:「私に任せておれ……」
転
大臣:「王様、待ってください。
今夜、首をくくられた人間は天国へ行ってしまいます。
こんな悪党を天国に送ってはなりません!」
結
王様:「わしはかねてから天国へ行きたかった。
お前はずっとわしのお供をする言っておったな?
わしは天国へ行きたい。
そちに道案内を頼む。では、先に死ねぃ」
大臣は自分の策におぼれ、命を失うことに……。
王様自身も、天国に行こうとして死んでしまう……。
このストーリーのポイントは?
前回も触れましたが、昔話には、よく“3の要素”が使われます。
この物語にも、実にうまく3の要素が使われています。
それも、鎖のようにしっかり繋がれた「3」です。
まず、承①で、キツネの毛布を買うためのお金を着服し、
大臣の本性はいきなり全開します。
そして、承②の冒頭で、それがバレそうになるも……
しかし、それをうまく乗り切り……
またも着服……。
承③の冒頭、またも承②で着服したお金のことがバレそうになるも……
大臣は、これまでとまったく同じ流れで、うまく乗り切る。
しかし、今度はここで新展開。
罪を被せられた料理番が、大臣に取引を持ちかけてきます。
「あなたにお金もやります、さらに、王様と同じ料理を食べさせてあげます」と。
…そして、転で、
大臣が自分の身を滅ぼす嘘をついてしまうのですが…。
この物語の承①〜③のポイントをしっかり抑えておくと、
つまりは、こういうことです。
最初から、「あやしいやつ」として描かれていた大臣が、
しっかり、悪さを働く承①
(予想通り)
⬇︎
「大臣の嘘がバレるのか?」と思ったら……
なんと、バレない承②
(驚き)
⬇︎
「大臣の嘘がついにバレるのか?」と思ったら……
なんと、やっぱりバレない承③
(なーんだと思うと同時に、大臣が懲らしめられることを願う読者)
コレ、実によくできています。
読者(聞き手)の気持ちをず〜っと、鷲掴みのまんま、
最後まで持っていってます。
予想させ、その予想を裏切り、
でも、最後には、読者がちゃんと望む通りの結末を迎えます。
(王様が実は賢くて、わざと騙されていた……という展開はなく、最後、本当に死んでしまうのは、ある意味、衝撃ですが、何とも言えない読後感が、逆に気持ちいです……。)
このストーリーの伝えるメッセージは?
この物語は、とにかく“筋”が、ものすご〜く緻密にできていますが、
あまり
“メッセージ性”はないように思います。

いくら何でも、
「そんな嘘つき大臣を信じてしまう王様も同罪だ。同じ目に遭っちゃえ!」
なんていうメッセージはありません。
しかし、(再話者がいるとしても)この物語が、
純粋な創作物ではなく、古来から人々の口から口へ伝承してきた話
だということ自体に、何か希望を感じます。
「人の気を引くテクニック」がこんなにも洗練された形で、
ず〜っと受け継がれてきたんですね。
それぞれ、大きな悩みや小さな悩みを抱えながら、
また、人間関係に苦しみながら、
日々生きている人間ですけど、
世代や時空を超えた、大いなる知性からすると、
たぶん、かわいいもんなんですよ。
代々受け継がれてきた昔話に、
こんなにも見事に、感情を手玉に取られちゃうくらいですから……。
……そんなふうなことを思ったりします。

……というわけで、
名作昔話を掘り下げる、第7回目『かしこすぎた大臣』でした。
何らかのお役に立てば幸いです。