むかし、あるところに、ひとりの王様がおりました。
王様には、娘がひとりおりましたが、城の跡継ぎに、男の子が欲しいと思っていました。
ところが、待ちに待ったふたりめの子供も、生まれてみると、やはり、女の子でした。
王様はがっかりして、腹立ちまぎれに叫びました。
「わしにとって、ふたりめの娘など、春でも、夏でも、秋でも、冬でもない、役立たずの、5つめの季節のようなものだ」
すると、この言葉を聞きつけた魔女が、どこからともなくやってきて、生まれてきた娘を、さらっていってしまいました。
王様は、つい呪いの言葉をいってしまい、ふたりめの娘を失ってしまったことを、あとになってとても悲しみました。
それからその悲しみは、歳を追うごとに増していき、ついに王様は、すっかり顔色が青ざめるほどになってしまいました。
人々は、こんな王様を、“なげきの王”と呼びました。
なげきの王は、こんなおふれを出しました。
「だれでもよい、5つめの季節を見つけたものには、娘をやり、わしの亡きあと、王の位を譲ることとしよう」
そうして、何年かが過ぎました。
ある時、この都にひとりの貧しい兵隊がやってきました。
この兵隊は、ケガをし、もうお勤めができなくなってしまったので、隊長にひまを出され、行くあてもないまま、旅をしていたのでした。
都へ着いた男は、おなかをすかし、何か食べ物を恵んでもらおうと、一軒の家の戸を叩きました。
そこには、ひとりのおばあさんが住んでおり、おばあさんは、男をこころよく家の中に入れてあげました。
そしてこのあわれな男に、とびきりおいしいパンをごちそうしてあげました。
おばあさんは男に、これからどこへいくつもりかと尋ねました。
「それが自分でも分からないのです」
と男が答えると、おばあさんは、
「おまえさんがその気なら、この国の王になることも、むずかしいことじゃないよ」
といいました。
おふれのことを知っていた男は、
「では、どうすればよいのでしょう?」
と、おばあさんに聞きました。
「なあに、それはここで、三日間、わたしの手伝いをすればいいのさ。そうすればきっと、どうすればよいのか分かるよ」
男は、このおばあさんのいうとおりにしてみることにしました。
まず1日め、おばあさんは兵隊に、小麦を臼でひいて、粉にする仕事をさせました。
2日めには、パンの生地をこねて、形をととのえる仕事をさせました。
そして3日めには、パン焼き釜で、パンを焼く仕事をさせました。
男は、おばあさんにいわれるとおり、まじめに働いたので、パンの作り方を、すっかり覚えてしまいました。
それに、おばあさんが、いつもパンを焼くときに歌っている歌も、覚えてしまいました。
それは、こんな歌でした。
♪おいしいパンは 誰の心も 許しちまう〜
魔法だって とけちまう〜
そうして、約束の三日がすぎ、四日めの朝、おばあさんは、男にいいました。
「おまえさんが顔を洗った桶に、スノードロップの花びらを一枚うかべて、その花びらのさすほうへ、歩いていくといい。それから、この小麦粉を持ってお行き。きっと、何かの役に立つよ。わたしがいえるのは、ここまでさ」
男は、さっそくおばあさんのいったとおりに、桶に花びらをうかべて、その花びらのさすほうへ、小麦の入った袋を手に、歩いていきました。
男がどんどんと歩いていくと、やがて、森の中へ入っていきました。
それからなおもどんどん歩いていくと、見たこともないような不思議なつくりの、一軒の家の前に出ました。
それは、季節の精たちの家でした。
男が戸の前に立つと、戸は、スーッと開きました。
中では四人の男の人が、暖炉の火にあたっているところでした。
ヒゲの長い一番年寄りが冬の精で、それから秋、夏とだんだん若くなって、一番若いのが、春の精でした。
「こんにちは」
と、男があいさつすると、
「お、人間がきたぞ」
と、黄緑の服を着た、一番若い春の精が、ほかの三人に教えました。
男は、全員が自分に気付いてくれたことを確かめると、
「ここに、5つめの季節はありますか?」
と、聞いてみました。
すると、深緑色の服を着た夏の精が、
「ああ、あの役立たずかい?」
と、窓のそばの、鳥かごの鳥をさしていいました。
男は、その鳥こそが、探していた五つ目の季節だと知ると、
「あの鳥を、わたしに譲ってもらえませんか?」
と、聞いてみました。
すると、枯れ葉色の服を着た秋の精が、
「くれてもいいが、あんたはわしたちに、何をくれるね?」
と、聞いてきました。そこで男は、
「わたしはあなた方に、とびっきりおいしいパンをごちそうして差し上げます」
といって、持ってきた小麦粉で、パンを作りました。
パンは全部で5つつくり、4つを季節の精たちに食べてもらうと、男は残りの一つを、懐にしまっておきました。
季節の精たちはみな、パンをおいしそうに食べ、食べ終わると、白い服を着た冬の精が、「よろしい。その鳥は、持っていくがよい」
といいました。
こうして男は、鳥を手に入れると、すぐに、なげきの王の城へ向かいました。
そして、王様の前に通されると、
「王様、5つめの季節を見つけてまいりました」
といって、持っていたパンを、連れてきた鳥に食べさせてやりました。
するとたちまち、かけられていた魔法がとけて、そこには、美しいお姫様が姿を現しました。
なげきの王は、お姫様を抱きしめ、涙を流しながら、自分のしたことを謝りました。
それから男は、自分が見つけてきたこのお姫様と結婚をし、のちにこの国の王となって、長い間立派に国を治めました。